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K-popと政治問題だけでは語れない朝鮮半島について書いています。

反日映画?これ見ていいな!おすすめの日本統治時代韓国ドラマ&映画TOP5

 今回は、韓国留学中に歴史遺跡を練り歩いた映画オタクが選ぶ、日本統治下を舞台とした韓国ドラマ&映画TOP5をご紹介します!大いに”攻め”&完全個人の趣味爆発なランキングですが、次に見る作品選びの参考にでもお役立てください。あなたが見たことある作品はありますか?
※作品だけ知りたい人はランキングまで飛ばして下さい。

はじめに

 ランキングに入る前に、韓国コンテンツでの日本統治下の描写についてちょっと触れておきます。韓国ドラマにハマりだし、面白い面白いと思って沼に潜ってくと、避けては通れないのが日本統治時代の作品たちですよね。特に歴史ドラマファンは何度もこの時代に悩まされているかと思います。俳優が好きで映画やドラマを見てる人達もそうかもしれません。日本統治時代を描いた作品は韓国ではとてもありふれたもので、数も多く、韓ドラ&映画沼に入っていくと必ずどこかでぶち当たります。イ・ビョンホンとキム・テリの歴史大作ドラマ「ミスター・サンシャイン」や、コンユ&ソン・ガンホ主演映画「密偵」などがいい例でしょう。日本統治時代を描く作品では、ほとんどの日本人が悪者扱いをされ、見てて気持ちのいいものではないからです。ですが、実際に日本人が朝鮮人を虐げていた歴史も存在します。私たちはどのような心持ちでこのれらの作品を楽しむべきなのでしょうか。

 初めて日本統治時代の作品を見た時、ほとんどの人たちは日本人が悪者扱いされていることに驚くかと思います。「おいおい、そんな歴史があったなんて聞いていないよ」という具合に。それだけならまだいいのですが、たいていの場合、そのすぐ後に"日本人の残虐性に引く"という過程が待っています。戸惑っている私たち日本人視聴者は置いてけぼりで映画はどんどん進んでいき、日本人としての不快感も加わって「面白くない」と判断してしまうのがほとんどではないでしょうか。この手の作品では、日本軍人や日本市民のほとんどがフラストレーションMAXで、人を殴ったり殺したりするのも厭わないように描れます。登場する日本人たちのあまりの非道さに、好きになった俳優のことでさえ作品に出ていることを理由に「反日なの?」と疑ってしまう人もいるでしょう。

 もちろん、"作中で悪く描かれる日本"とは、大日本帝国のことを指します。私たちが生きている現在の日本国ではありません(関連はありますが)。今でこそ民主主義や人権という考えが存在する日本ですが、過去そうではない時代がありました。1945年以前の、天皇を中心とした権力構造を持ち、人権も法律の下で制限されていた時代です。生きている感覚も、韓国に対する視線も全く違います。ですが、個人のアイデンティティと国の歴史はそう簡単に切り離せるものでもないため、映画やドラマで描かれる"日本人"に違和感を持ち、作品を受け入れらないことが多々あるかと思います。

 でも、悲しいですが、"残虐な日本(人)"というのが現代韓国での大日本帝国と当時の日本人を見る視線なのでしょう。日本統治時代を舞台とした作品で"日本"が分かりやすい悪として描かれるのは、「大日本帝国=悪」という認識が今の韓国社会で共有されてるからこそ可能なのです。大日本帝国が朝鮮を支配し、日本人が自分たち朝鮮民族を虐げた歴史があることは、韓国ではあまりにも常識として浸透しています。

 ただ、そういう歴史があると頭では分かっていても、感情の部分で受け入れられないと言う方もいると思います。そういう方には"ハリウッド映画でのナチス党員の扱い方"になぞって理解するのをお勧めします。世界史を少しでも学んだことがある人は、"ナチス"がユダヤ人を差別し、周辺国に戦争を仕掛けたことはご存じでしょう。歴史を二度と繰り返さないため、その残虐性は戦後何度も強調されてきました。そのため、"ナチス=悪"と言う方程式が私たちの中で共有されています。この方程式をハリウッドは大いに利用しているのです。観客に"この人は悪い人だよ!"と認識させたいときに、ナチス党員という設定を出してしまえばわざわざその人が"悪い人"という説明をしなくて済みます。これは映像制作の上でかなりの利点ですし、その時代を描きやすくなるという要素になりえると私は考えています。

 ここまで、史実との関連を交えて話してきましたが、一方で私が絶対に勘違いしてはいけないと考えていることがあります。それは「映画やドラマで歴史は学べない」ということです。映像作品は、歴史に興味を持つきっかけになったり、当時を生きていた人たちを想像するヒントになるかもしれませんが、あくまでフィクションです。いくら「実話をもとに」と言ってもドラマは脚本家が書いたものであり、映画は監督の頭の中を具現化したものです。歴史を語るものではありません。フィクションはストーリーや世界観を楽しむもので、あくまでエンターテインメントだと私は考えています。映画を見た後に不快感が勝つのであれば、無理に見る必要はないでしょう。

「じゃぁ、どうしてそこまでして日本統治時代の韓国作品を見続けるのか。」

 私の場合は「不快感を乗り越えた先にある感動を諦めきれない」というのが一番にあります。正直、戸惑ってしまうのは最初だけで、いろんな作品を見続けていくうちに記号的な演出には慣れました。加えて、実際の歴史について学んだのが一番大きいと思います。自分の中で植民地支配への考えがある程度整理がつき、背景知識を知ることで作り手の意図がより明確に分かるようになりました。そして、歴史が持つダイナミックさや、現代では表現できない感情たちにリアリティが与えられる瞬間を作中で目撃して、日本統治時代の作品を見ることをやめられなくなってしまったのです。私が日本人であるという理由で、良質な作品を見る機会を自ら手放してしまうのはもったいないとは思いませんか?日本統治時代の作品から得られる感動には、その時代なりの、作品を見続ける価値があると私は思っています。

 前置きが長くなりましたが、順番におすすめ作品をご紹介していきましょう。

1.死の賛美

https://ww.namu.la/s/58b7ba53ce797a8b44fecc7b327ac2096a785070f7cbccc60edcff70ce8aad7d1fe72e91f8f24c29c57067bc4a6c3ab97397fb1c0611cc6769f80bffa5b9cc7f6223062d3be756f20e2144c4137573ae79daf65ce860c5186133a5b07e336aa1aad7d93634e9367ee22c5882d25fb846

 私の永遠の推し、イ・ジョンソク主演の短編ドラマ「死の賛美」(原題:사의 찬미、2018年、全3話)が堂々の第1位です。選出理由は「実力派イケメン俳優の推しが主演だから」と言いたいところですが、八百長はいけません。「ストーリーが自分の好み」というのが、この作品を1位に選んだ本当の理由です。

 ロミジュリのような叶わぬ恋をメインストーリーとして祖国のためと演劇に熱中する若者たちを描いています。私はコメディーが好きなんですが、実はその2倍くらい悲劇が大好きです。特に、結ばれない恋愛もので号泣するタイプの人間です。この作品は、タイトルからサッド・エンディングが容易に想像でき、前半の幸せなシーンほど泣けました。また、短編ドラマで知名度が低いため、あえて1位にしたというのもあります(と言いつつ私が2周した完成度)。映像もすごく美しく、見てて常に心地よかったです。
 小話を一つすると、主人公キム・ウジン(イ・ジョンソク)が日本で通っていた大学が私の母校でした。なんなら改編前の学部まで一緒でした。実話が元になって作られたそうなので、おそらくモデルの人物が通っていたのでしょう。ドラマの設定上でも、イ・ジョンソクの後輩になれたことがとてもうれしかったです。ありがとう!先輩!

www.netflix.com

2. お嬢さん

お嬢さん(字幕版)

 2位は、泣く子も黙るキム・テリの衝撃デビュー作「お嬢さん」(原題:아가씨、2016年公開)です。私は、この映画を見た随分後にこれが彼女のデビュー作と知ったんですが、文字通り声を出して驚きました。当時の共演者が言っていた「すごい女優さんになる」と言う言葉を地で行っているキム・テリは現在、Netflixドラマ「二十五、二十一」でもその実力を爆発させています。(17歳の少女を演じている女優が今年30だなんて誰が信じるのか......)

 映画は、貧困街で孤児として育った少女スッキ(キム・テリ)が主人公です。彼女は詐欺師の仲間となり、莫大な資産家の家に使用人として潜入します。令嬢のお世話係として働くうち、お嬢様にどんどん情が湧いていき、段々と罪悪感を抱くようになります......。

 作品自体はR-18指定で、超露出度高めな作品です。私はそれに気づかず、留学先の大学図書館のAVルームで堂々と見てしまった前科があります。登場人物が服を脱ぐたびに周囲を気遣ったのも、今となっては大切な留学の思い出です。監督はパク・チャヌク監督で、練りに練られたなんとも"変態な"演出とシナリオが見どころ。後半の大どんでん返しに興奮しました。映画作品として非常に質が高く、濃密な2時間を味わえます。

3. 金子文子と朴烈

金子文子と朴烈(字幕版)

 3位は「金子文子と朴烈」(原題:박열、2017年公開)です。この映画に関しては、私が原作の大ファンだというのが大きいでしょうか。金子文子の手記『何が私をこうさせたか』(岩波文庫、2017)を始めて読んだ時、私の中で激震が走りました。"フェミニズム"や"女性の自立"が叫ばれるずっと前の日本で、「自分を生きる」ことを貫いた一人の女性がいたのです。無戸籍として不遇の子供時代を生き延び、大人になって朝鮮人の恋人をもった文子は、最終的に天皇への大逆罪で死刑宣告を受けます。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、彼女の手記を読んでいるとまるで映画のようでした。

 そんな原作を本当に映画化した本作は、原作ファンをガッカリさせなかったことだけでおすすめに値します。確かに、私の中に既にあった文子のイメージと全く異なってはいましたが、映画の中の主人公文子も作品とキャラクターの調和がとれていて、とても気に入りました。何より、金子文子を演じたチェ・ヒソの演技が素晴らしかったのを覚えています。彼女の熱気がスクリーンを挟んでも伝わってきて、映画を見た後はとても温かい気持ちになれました。

4.グッド・バッド・ウィアード

グッド・バッド・ウィアード (字幕版)

 4位はソン・ガンホイ・ビョンホンチョン・ウソンというトップスター3人を迎えた、ドタバタアクションコメディー大作「グット・バット・ウィアード」(原題:좋은 놈, 나쁜 놈, 이상한 놈、2009年公開)です。アジアで西部劇を作り、満州を舞台にするという妙技をやってのけた映画です。 

 西部劇の名作『The Good, the Bad, and the Ugly 』(邦題:夕陽のガンマン、1967公開)が元ネタで、お約束的なシーンがいっぱい出てくる映画ではありますが、西部劇に馴染みのない私でもコメディーとアクションが分かりやすくてとても楽しめました。何と言っても、中二病イ・ビョンホンが見どころ(笑)。日本軍もお決まりの悪役の記号としての役割しかなく、超人のチョン・ウソンにバタンバタンと倒される様は、勧善懲悪ものの特有の"スカッとさ"までありました。

5.マルモイ ことばあつめ

マルモイ ことばあつめ(字幕版)

 5位には、独立運動ど真ん中の映画を選びました。大日本帝国は、朝鮮の人々に朝鮮語の使用を禁止し、日本語の使用を強制した歴史があります。そんな時に朝鮮語の辞書を作ろうとした人々を描いた映画「マルモイ ことばあつめ」(原題:말모이、2019年公開)です。

 韓国では、大日本帝国の支配に抵抗した人々は今の国の礎を築いた人たちでもあるので、関連の映画がよく作られます。大抵は有名な独立運動家が主人公であることが多く、時代と独立運動という共通点があるため、どうしても作品の雰囲気やストーリーの流れが似通ってしまう傾向があります。

 でもこの映画は、政治に何も関心がない元スリ魔で憎めない中年男性キム・パンス(ユ・へジン)が主人公で一味違う、独立運動映画としてお勧めでです。彼のキャラクターがとてもチャーミングで、セリフがウィットに富んでおり、独立運動をテーマにした作品は重くなりがちですが比較的コミカルでした。一応、実際にあった事件をモチーフにしてるのですが、ストーリーはオリジナルらしく、映画としてよくできていて後半ぼろ泣きでした。あとで調べてみると、監督はあの「タクシー運転手 約束は海を越えて」(原題:택시운전사、2017年公開)の脚本家のオム・ユナさんとのこと。どうりで!!と大満足の作品でした。特に、言葉がモチーフの作品なので韓国語を勉強している人たちならより楽しめるのではと思います。

番外編 PACHINKO

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  まだ完結していないので最終的な評価はできないですが、ぜひ見てほしい作品があります。AppleTVで配信中のドラマ「PACHINKO」(2022年、全8話)です。アメリカのベストセラー小説が原作で、日本統治時代に朝鮮から海を渡った家族の4世代の人生が描かれています。抑圧された朝鮮人・韓国人たちの悲痛な叫びを、現代と過去が交錯するように描いていて、韓国人の彼氏と見ながら毎週泣いています。あまり涙を見せない彼もボロボロ泣いているので、これを見て泣かない韓国人はいないのではと思ったほどです。

 AppleTVオリジナル作品とのことで、視聴者層は全世界を対象として制作された作品でしょう。「パラサイト」「イカゲーム」に続く韓国コンテンツと言ってもいいと思います。そのため、「PACHINKO」では、この手の作品によく出てくる"お約束"が世界中の視聴者向けに丁寧に描写されています。その丁寧さがとてもいいのです。そこから、息苦しい植民地支配の空気がダイレクトに伝わり、植民地支配の残虐性を浮かび上がらせます。世界で飛ぶ鳥を落とす勢いの韓国コンテンツの文脈で、「パラサイト」の次に「PACHINKO」を見た日本人視聴者はきっと衝撃を受けるでしょう。
 また、制作側もさることながら、作品を支えている俳優たちの演技が素晴らしいです。映画「ミナリ」(原題:Minari、2020年公開)でアカデミー助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンが老年の主人公を演じており、有名どころで言えば、イ・ミンホも登場します。主人公の若い頃を演じるキム・ミンハの目で語る演技も見ごたえありです。

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