20歳と38度線

K-popと政治問題だけでは語れない朝鮮半島について書いています。

KPOPファンの生きづらさと差別はつながっている

最近、こんなツイートがプチバズリしていた。

私は「夫が嫌韓なので隠れてKPOPを聞いている」というエピソードにとても共感し、昔母親から「私がいるときにテレビでそんなもの(KPOPの映像)見ないで」と言われたことを思い出した。その時は確か、

「えーなんでー!」

と駄々をこねて、「勝手にしなさい」と母がリビングから出ていったと記憶している。

 私は、韓流ブームから少し遅れてチャン・グンソクにハマり、韓ドラ「美男ですね」経由でCNBLUEからKPOPを聞くようになった。それ以来、ずっと韓国コンテンツに親しんでいる。韓流ファン歴はもう10年だ。(そんな長い月日が流れていることに書きながら驚愕している)

 韓流ファンになって以来、私は、母をはじめとして友人やバイト先の同僚に嫌韓みを帯びた言葉を定期的にかけられてきた。

「韓国ドラマのどこがおもしろいの?暇なの?」

「KPOP好きなんなんて、ひみさんは変わってるよね(笑)」

「俺/私、韓国嫌い」(別に聞いてないけど?)

「あれでしょ、男の人も化粧するんでしょ?(半笑い)」

「何が好きか/ハマっているものを聞いてきたのはそっちだろ!」とか、「なんだその偏見の塊は!」と毎回イライラはしていたけど、当時は"慰安婦"問題や領土問題がメディアで大きく取り沙汰されて日本全体に嫌韓ムードが漂っていたし(今思えばちょうど安倍政権と時期丸被り)、これらの言葉にまともに取り合っているとキリがないので、徐々に聞き流すようになった。東京の大学に進学してからは母と話すこともなくなった。

「勝手に言ってろ。こっちは勝手に楽しんでるから。」

 ただ、大学でヘイトスピーチの存在を知った後はそうも言ってられなくなった。差別と偏見がぐちゃぐちゃに混ざって凝り固まると、生命の危機を感じる問題になると初めて認識した。ヘイトクライムというのもあるらしい。マジで異常すぎると思ったけど、日本ではヘイトスピーチすら規制する法律がないと聞き、びっくり仰天した。

 ヘイトスピーチが日本社会で表面化したのは2009年の京都朝鮮学校襲撃事件がキッカケだった。その頃、中坊の私はまだ国民的アイドル嵐に夢中で、憎悪の対象に子どもを狙う姑息で悪質極まりない事件の存在を知らなかった。その後、私が大学に入学したのが2015年。当時の新大久保は新宿のど真ん中と言うのに、廃れた雰囲気が漂っていて、今みたいな「週末は人がいっぱいで歩道が歩けない」なんて、全くなかった。私は、隠れるように好きな俳優のブロマイドを買い、ガラガラの韓国料理屋で昼飯を食べていた。


 2016年に国・地方公共団体が啓発活動に取り組むことを定めたヘイトスピーチ解消法(罰則規定はない) が施行されても、差別と偏見が収まることはなかった。BTSが世界を席巻しても、2021年の8月に在日朝鮮人が多く住む京都・宇治のウトロ地区で放火事件が起こった。7棟の家が燃えた。同年開館予定だった平和祈念館のための資料も燃えた。危うく人が死ぬところだった。さぞかし、犯人は反省しているだろう思ったら、

「ヘイトという形で国民の不満をうさ晴らしするには、一役かったと思っています」

インタビューに答えていた。



は?英雄ぶってるってのはどういう了見??

 

 朝鮮人差別について調べていると、差別する人達を表現する際に「普通」「普通の人」という言葉をよく聞く。ある記事では、この放火犯の過去を知る人に取材しても右翼団体とのつながりや右翼思想を連想する発言は無かったと書かれていた。

 去年の夏、私はウトロに行った。事故現場もちゃんと保存されていて、先が燃え落ちて青空に突き刺さる黒焦げの柱を見た。炎は人間を燃やす力を持つんだということを改めて認識した。これを「普通の人がやった」と言うには、あまりにも残酷すぎた。

ウトロ地区 放火現場

「こんなん、通常の精神状態ではありえなくないか?」

 だって、もし普通の人が差別感情を持ち、その延長で放火魔になったのなら、それを止められなかった日本人たちにも問題があることになってしまう。犯人は"私たちの不満"を憂さ晴らしをしたと言っているのだし。その"不満"と生活苦による鬱憤を一気に解決する方法として、"韓国人の家を燃やすのが効果的だ"と、私たちは犯人に思わせていることになるのだ。

 同じインタビューの中で、彼は自分の根底に韓国・朝鮮の人に疑心や嫌悪感があり、仕事を辞めたことが事件へとつながったと語っていた。それを知った時、私はめちゃくちゃ怖かった。そして、ずっと考えていたことが確信に変わった。
 犯行前の彼と、何気なく私に韓国を否定するような言葉をぶつけてくる人たちに、何ら違いはないと気づいてしまったからだ。"普通の人"たちが、憎悪犯罪の加害者になる可能性を大いに秘めているのである。そして、"普通の人たち"こそが、憎悪犯罪を犯す人にとって"国民"であり、犯人に力を持たせるのだ。朝鮮人・韓国人への差別と私が感じてた韓流ファンとしての生きづらさはめちゃくちゃ地続きだったのだ。

 この"普通の人たち"をどこかで止めなければ、また誰かの家が燃やされる。そしていずれ誰かが殺される。私がうかうかしてたら、私の夫がその犠牲になるかもしれない。あなたの韓国語の先生が刺されるかもしれない。韓国語を話した時の私や韓国ファッションに身を包むあの子だって、憎悪犯罪に手を染める人たちからすれば一緒かもしれない。

 じきに「KPOP好きな奴も同類」だと平気で言う奴が出てきて、それを支持するような人たちが一定数出てくれば、次はアイドルのコンサート会場や推したちに火をつけるかもしれない。誰かが死ぬなんてことは、絶対に避けなければ。もし憎悪犯罪で死人が出たら100%私たちの責任である。犯人と"普通の日本人" 、そして彼らの憎悪を止められなかった"普通じゃない日本人"全員の責任なのだ。殺された方に責任があるなんてそんな馬鹿げた話があるわけがない。


 私たちは今、韓国人への差別を犯罪の理由として容認する国で、KPOPを聞いている。ヘイトスピーチヘイトクライムを罰する法律がない国で、韓国ドラマを見ている。その事実を深刻に受け入れなければならない。そんな深刻な状態で私は、"普通の人"たちの危うさに気付けずに、「面倒だから」という理由で同じ日本人の差別を野放しにしていたのだ。

 もうこの事実に気付いてしまった以上、「面倒くさい」とか「勝手にしてろ」とか言ってられなくなった。こうなったら、あの"嫌韓みを帯びた言葉たち"に真正面から突っ込んでいくしかない。「その根拠は?」「それどこの情報?」「実際に行ってみた?」「実際に食べてみた?」「実際にそういう人に会ってみた?」「そう思ったのはなぜ?」「それって差別だよね?」「あなたは差別主義者なの?」

 相手が右翼思想を持っているとか、ヘイトスピーカーかどうかは関係ない。"普通の人"でも何でも、国民の心の奥底にはびこる「韓国・朝鮮の人に疑心や嫌悪感」を火消ししなければ、長年築きあげてきたものを私たちは一瞬で失うことになるのだ。あの、ウトロの、燃えた空き家みたいに。

 

 去年、職場の先輩から


「韓国って噓つきの国だよね?」


と言われたことがあった。私は、

 

「あの、日本が昔韓国を植民地化したのはご存じですか?」

 

から始めた。仕事中だったから全然彼女を説得するまでには至らなくて、正直悔しかったけど、植民地の支配側と被支配側で見える歴史が違うのはよくありますよねと話すと、

「あ、そうなんだ。」
 
と言っていた。ちなみにその先輩はそれからしばらくしてBTSのジョングクにハマっていた。


 でも、さすがに全員に対して全力消防団を続けるのは体力が持たない。先輩はギリ説得しようと思えたけど、ネット上の変な捨てアカ、どうでもいい知り合いにまで突っ込んでいくのはさすがに無理だ。


 ただ、少なくとも、私が大切に思っている人にだけはそんな考えを持たせるべきじゃない。私がほったらかしたせいで、恋人、家族、親友が平気で憎悪犯罪を擁護し、そのせいで誰かが死んだら、私はどういう気持ちでKPOPを聞けばいいのか。そもそも、"大切な人"全員に差別意識を無くしてもらわないと、いつまでたっても私は同じ言葉をかけられ、自分の苦しい状況が続くのだ。

 KPOPを"そんなもの"と言い捨てていた母は今でも、(どれだけ質が良くて安価だとしても)中国・韓国製の家電を買うことを拒む。けれど、最近はそれ以外は特に気になる言動はなくなってきた。娘が韓国人と付き合って結婚までしてしまったら、家族の前で韓国を悪く言えないというのが一番大きいだろう。

 でも、母が変なことを言う度に、同じくKPOPオタクの妹と一緒に
「韓国人に"しては"って何、"しては"って。どゆこと?」
といちいち突っ込みを入れていたことも効果があったと信じたい。

 今では母は、私がいないところで「(夫)さん、とてもいい人」ねと言い、夫の実家から送られてくる韓国食品のお歳暮を毎年楽しみにしていると、実家にいる弟から聞いた。とりあえず、私は胸をなでおろしている。もちろん、まだまだ道半ばだけれども、努力は無駄じゃないんだと思うことができているのだから。

 

 でも、反論するための的確な知識や協力してくれる力強い仲間が、いつでもだれにでも見つかるわけではない。じゃあ、そんな時私たちはどうすればいいのだろうか。相手に言い返す言葉が見つからないとき、その場の空気に飲まれてしまいそうなとき、目の前で突き付けられる差別の現実に私たちは何度も傷つき、もがいてきた。

 多分、まずは実態を知るべきだと私は考えた。もしかしたら私の勘違いで、周囲から嫌韓発言を浴びている韓流ファンは、世界中で私と「夫が嫌韓でKPOPを隠れて聞いている妻」の二人だけかもしれない(そうであることをむしろ望むが)。また、実態を知るのは、仲間はこれだけいると確認したいのもある。私の狭い人脈と全然有名じゃないこのブログがスタートでも、きっと共感してくれる仲間がいれば、何かしらの答えが見つかるんじゃないか。「始めることが半分」だと韓国のことわざでも言んだし。

 それに、差別に対抗する方法は「共感」だって私たちは既に知っているじゃないか。世界中のKPOPファンがBTSの音楽に共感したから、彼らは世界でスターになり、有色人種差別が色濃く残るアメリカのビルボードチャートで、何度も1位を取ったんだ。


 最後に、アンケートのお願いです。嫌韓発言に晒される韓流ファンの実態調査のために、1分で終わるとても簡単なアンケートを作成しました。もし、興味のある方は回答&知り合いの方々へ紹介していただけるとありがたいです。回答者の情報は、アンケートの内容以外集計者に送信されることはありません。集計結果は後日ブログで公開予定です。

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